旅のあと

旅に出ていた、という錯覚に落下している。実際に旅をしていたのは友人で、私が見て回ったのは今住み着いている東京と周辺そのものであって、しかし錯覚でなく旅だったのではないか、と感じる今朝だ。旅の感触が今乗る中央線に色濃く残っている。

月曜日締め切りの仕事のためにぎりぎりまで残業をし、金曜の夜20時に東京駅で待ち合わせをした。お互いしっかりごはんを食べる気が起きなかったから、まさしく東京駅で売っているような豪華なケーキを買った。幕張まで京葉線に揺られ、舞浜を通り過ぎるのが不思議で、旅割で賑わうホテルのチェックインには40分がかかった。ケーキの箱をお皿にプラスチックの小さなフォークでケーキを食べた。広い温泉に浸かった。疲れたね、と言いながらも、笑い合って眠った。朝起きて、温泉に執着のある私は朝風呂に行き、彼女はギリギリまで寝ていた。メッセは目の前で、待機列でヒロステの速報に泣き崩れ、ブースを回ってフィギュアやおもちゃや原画やパネルを見てはしゃいで、飛ばしすぎたとベンチで座りながらコスプレの人たちを眺めた。ぽちぽち頑張ったけれどステージの先着に負けて、仕方ないからイオンモールで配信を観て良いお寿司を食べた。蔦屋書店を見て回って本を買い、電車を2時間乗り継いで家に帰り、サークルチェックをしてから眠った。朝ごはんには、昨日の倉敷珈琲のメニューを真似した、ツナとキャベツとチーズのホットサンドを作って食べた。ビックサイトは今回も神々しくて、たくさんの創作物は輝いていて、印刷所さんの装丁オタクぶりに触れて、本を買えたと嬉しそうな友人が私にも嬉しくて、とても楽しかった。帰りに定食を食べ、お気に入りの店で美味しいケーキを買って帰り、家でヒロステを見た。それから鎌倉殿の最終回を見届け、最寄り駅まで彼女を見送った。あっという間だった。

生活圏を軸にした旅だった。だからこそ、この電車に乗りながらあの場所に行ったな、あんな話をしたな、ということを、きっとしばらくは毎日思い出すだろうし、毎日思い出すことがなくなっても、折に触れて思い出す。それはとても幸福なことだと思う。旅のあとの街は、ほんの少しだけあかるい。

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